GITSSAC2045_teaserv2_WEB


まとめると~
● 『攻殻機動隊S.A.C. TRILOGY-BOX:STANDERD EDITION』が3月27日(金)発売
● 4月にはシリーズ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』がNetflixにて全世界独占配信される
● そんななか両作品を手掛ける神山健治監督とマフィア梶田が対談した

★メイン_神山×梶田_01_WEB

『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズのOVA 3部作をコンプリートしたBlu-ray BOX「攻殻機動隊S.A.C. TRILOGY-BOX:STANDERD EDITION」が3月27日(金)発売。4月にはシリーズ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』が、Netflixで全世界独占配信。両作品を手掛ける神山健治監督と生粋の「攻殻」フリーク・マフィア梶田による対談が実現した。

<マフィア梶田 プロフィール>
フリーライターとして主に日本最大級の総合ゲーム情報サイト「4Gamer.net」にて記事を執筆しているほか、「杉田智和のアニゲラ!ディドゥーーン!!」「Fate/Grand Order カルデア放送局」など、様々な番組・イベントにてMCを務める。また、声優や俳優としても活動しており、庵野秀明監督や大林宣彦監督よりオファーを受けて映画『シン・ゴジラ』や『海辺の映画館-キネマの玉手箱-』に出演するなど、業界の垣根を越えて幅広く活躍中。

梶田_WEB神山_01_WEB神山_02_WEB


―――“ディストピア”で楽しく生きてる奴らを描く

梶田:『攻殻機動隊 SAC_2045』(以下、『SAC_2045』)が始まる前に、『攻殻機動隊S.A.C.』(以下、『S.A.C.』)シリーズを見返して、愕然としたんですよ。というのは、モチーフとして政治的・社会的な情勢を描いているのに、一切古くない。つまり『S.A.C.』が発表されてから20年近く、社会の形相はほとんど変わっていないんです。

神山:しかも残念なところが変わっていなくて、良いところもさほど増えなかった。もちろんテクノロジー自体は進んできたけれど一番肝心な「人間」が変わらない。
というのも『S.A.C.』第1期では、僕が10代後半の多感な時期を過ごした昭和後期を咀嚼し直してみようというのがひとつのテーマだったんです。自民党の55年体制が終わって「新しくなっていくんだ!」みたいな空気があり、グローバル化と言われ出してアメリカの顔さえ見ていれば良く、一方で中国については蓋をして触れられない時期のことを描きました。それから20年経って、イギリスがEU離脱するなんて考えられなかったことも起きたけれど、日本は20年間ほぼ変わらぬまま。
当時ですら「失われた10年」と言われていたのに、いまや失われた20年を経て30年目に突入している。

梶田:まさしく今、中国とアメリカは二大大国としてバチバチですね。『S.A.C.』第2期(『S.A.C. 2nd GIG』)は、その未来を予感させる作品でした。でも2020年になった今、『ブレードランナー』の時代を迎えているはずだったのにこんなに夢の無い世界になっている。それがアニメ作品にも影響しているような気がするんです。実際、「攻殻」のような未来像を描く作品に対する夢がどんどん失われていませんか?

神山:たしかに「未来を描く」というのはアニメが得意としていたジャンルなのに、創り手はいなくなってきたし、視聴者側も求めていないのかもしれないですね。

梶田:どんどん刺激に対して鈍くなっていると感じています。でも、そんな難しい時代に新作『攻殻機動隊 SAC_2045』が出る!……新たな「攻殻」を描くにあたってはかなり苦労されるんじゃないですか?

神山:そうですね、テクノロジーはどんどん追いついてくるし、でもインターネットが登場した時のようなビッグバンはもうしばらくないだろうし。やっぱりテクノロジーのビッグバンがあった時に良いSFが育つけど、それがないから夢がない。
SFがダメな時にはファンタジーが盛り上がるけれど、最近のファンタジーは設定を楽しむものではなく「苦しすぎる現実からの逃避」としてしか描かれていません。

梶田:消費されるファンタジーですね。

神山:そう。そこでいざ「攻殻」を作ろうと思ったら、確かにあまりやることがないんです。だから楽しくやることにしました。
これまで“難し系”や“社会系”と言われていた「攻殻」を、入り口はちょっとおバカで始めようと思ったんですよ。

梶田:!……それは、ちょっと予想外でした。

神山:メインとなる公安9課のメンバーはスキルがあって、自己責任で生きられる奴らだというのは揺るぎない設定です。彼らが「もう社会正義とかどうでもいいから楽しいことをやろう」というところから物語をスタートさせるのが今の時代に合っているんじゃないかな?と考えて、みんなが遊び暮らしているところから始まります。
彼らは自分のスキルを存分にふるえれば、お堅い公安だろうがどこでもいい連中なので、ディストピアで楽しんでればいい。『マッドマックス』の世界が来たら幸せな奴らなんですよ。

梶田:面白い発想ですね。超、憧れます。

神山:予告編からは「攻殻」らしくない感じを受けるかもしれないですね。一方で「攻殻」は僕のなかで「今」を切り取るためのツールでもあるので、公安9課のメンバー達が今の社会を見た時にどう感じるかが新シリーズのテーマなんです。



―――2045年/シンギュラリティと“ゴースト”

梶田:タイトルの「2045」という数字からすると、2045年問題(シンギュラリティ)が物語の核として組み込まれているんでしょうか?

神山:そうですね。でも世の中の流行は移り変わりが早いので、このアニメが配信される頃にはもう “シンギュラリティ”という言葉は忘却されているかもしれないですが。

梶田:神山監督の視点って、テクノロジーや社会に対してすごく俯瞰しつつもAIに対してロマンチックだと思うんです。2045年というAIが発展しているであろう世界でどこまで“ゴースト”の存在を突き詰めるんでしょう?

神山:“ゴースト”というのは「攻殻」において唯一のファンタジーですよね。“ゴースト”って、ある意味こちらに主観があって生まれるものだと思います。大事にしている車には“ゴースト”が宿る。「事故が起きる寸前だったけどコイツ(車)が今、俺を救ってくれたかも」みたいなことは、自分が勝手に思ってるだけ。でもそう思った時にはもうその車には“ゴースト”は存在している。

梶田:AIやロボットに対して人間が愛着を抱いた瞬間に“ゴースト”が宿る、というね。

神山:そう。僕は、それとテクノロジーは似ている気がするんです。思いを入れていかないと新しいテクノロジーは発見されていかない。……どうしても数多の作品では新しいテクノロジーは敵として登場していますよね。『ターミネーター』などのハリウッド映画で新しいテクノロジーは悪役です。日本でも「これ以上科学は発展しない方がいいよ」という自然回帰に正義があるスタイルが定着している。
でも「攻殻」の原作者である士郎正宗先生は「科学は悪役じゃないよ、未来に希望があるものとして存在してるんだよ。という描き方をしなさい」と仰っていて、今でも深く共感しています。人類は手に入れたテクノロジーはどうしても捨てられないので、それならば共存しながらそのテクノロジーを使って問題解決をしていく……という発想が芽生えるきっかけになったのがその士郎先生の言葉だった。そこは「攻殻」を作る以上は守り続けたいと思っています。

梶田:自分もテクノロジーはどんどん発展していった方がいいんじゃないかと思うんですが、一方で、発展しすぎたことによる弊害で取り返しがつかない状況に追い込まれていますよね。たとえば、昔の車はイジれば直せたけど、今はコンピュータ制御だからイジっても直せない、とか。

神山:生活の基盤になっているインターネットサービスが急に停止してしまったらパニックになるとかね。そういう意味では、人類は危機的状況へと突っ走ってる。

梶田:それでいうと、先日発表された『SAC_2045』のストーリーに出てくる“ポスト・ヒューマン”という存在は悪役ではない?

神山:よくぶち当たる「発展したAIには人類が地球にとって一番の害と判断されて排除されてしまう」ということについて考えたくて。そこで登場するのが“ポスト・ヒューマン”ですね。

梶田:AIの発展については『S.A.C.』シリーズでも描かれていますよね。タチコマ達が自発的に公安9課のメンバーを救い、自己犠牲の心まで芽生える。でも、ドックでのタチコマたちの会議シーンとか、実は怖いですよね。
人間の監視のない中でAI同士がどんどん会話していき、些細なきっかけで人類の敵に回ってしまうかもしれない。


神山:原作漫画ではね、AI達は「人間って支配すると面倒くさいな」という結論になるんですよ。「1日に3回もご飯食べさせてあげないといけないし、そんなに面倒なら支配せずに僕らが支配されている方がハッピーなんじゃない?」と革命は起きなかったという皮肉で面白い短編があります。AIをよく表していますよね(笑)。
そういう危機感があるからこそ、『SAC_2045』では“ポスト・ヒューマン”を登場させます。そこにファンタジーとして“ゴースト”をうまく使うことで、エンターテイメントとしても面白いものにできそうだという手応えがあります。

神山×梶田_02_WEB神山×梶田_03_WEB

―――人間のロマンと現実

梶田:『S.A.C.』シリーズの好きなところは、人間が人間であるが故に逃れられない呪縛を描いているところなんです。悲しみを背負った人間の業や、逃れられない情が見て取れる。それはあまりにもサイエンスが進歩しすぎた「攻殻」の中での一種の安心材料になっています。やっぱり『S.A.C.』シリーズは荒唐無稽なものは一切なくて、非常にリアルな人間性を描いていますよね。ただ、アンドロイドについては、リアルな人の形をしているとマズイなと思うんです。9課のオペレーターの女の子達(通称 “オペ子”)にも特別な感情を抱きつつあって(笑)。

神山:愛着を抱いた時点で、オペ子にもゴーストが宿っているってことですね(笑)。まぁ、現実的に想像すると、ゴミ箱に手が生えているようなロボットの方がおそらく早く受け入れられると思うんです。でも、東大の稲見昌彦先生や“不気味の谷”を研究されている方とお話をすると、やはり人間そっくりなものを追求されている。ロマンですよね。そこに憧れる海外の方にも響くのが「攻殻」だと思います。「攻殻」を好きな海外の人達って、自分達にはない宗教観をファンタジーとして受け入れているんじゃないかな。『ブレードランナー』にも近いけれど、もっと神秘性を感じている印象です。

梶田:最後に新作の見どころを。

神山:2045年にどういうことが起きるだろうと現実に即してアイデアを出しながら、エンターテイメントとしてのファンタジー要素も入れています。世界に向けた新しい表現でありつつも、これまでの「攻殻」の延長上にある未来の物語になっている手応えもある。はやく確かめていただきたいですね。

補足場面写真1補足場面写真2



KKSLM_MB_WEB

攻殻機動隊 S.A.C.TRILOGY-BOX:STANDARD EDITION
2020年3月27日(金)発売決定
¥14,000(税抜)
発売・販売元:バンダイナムコアーツ

『攻殻機動隊 SAC_2045』
Netflixにて2020年4月全世界独占配信!
<メインスタッフ>
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)
監督:神山健治 × 荒牧伸志
キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:戸田信子 × 陣内一真
オープニングテーマ:millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045 「Fly with me」
制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS

<メインキャスト>
草薙素子:田中敦子/荒巻大輔:阪 脩/バトー:大塚明夫/トグサ:山寺宏一/イシカワ:仲野 裕/サイトー:大川 透/パズ:小野塚貴志/ボーマ:山口太郎/タチコマ:玉川砂記子

攻殻機動隊 SAC_2045公式サイト
公式Twitter
©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

…社会的意義のある作品だよね